ダイビング屋の本質、それは「究極の雑用係」である。
水曜日。
ダイブテリーズのスタッフは基本週休2日。
お休みできない週は、振替でお休みをするようにしています。
なので今日はワンオペでお昼12時から営業。
皆様のご来店、お待ちしています。

こんにちは。
ダイブテリーズの我妻です。
気がつけば、私がインストラクターとして海の世界に身を置いてから、もう40年という月日が流れようとしています。
これまでに数え切れないほどの方々のCカード(ライセンス)取得をお手伝いし、一緒に世界中の海を潜ってきました。
「40年もダイビングショップのオーナーをやっているなんて凄いですね」と言っていただくこともあります。
しかし、私自身が自分の仕事をどう定義しているかと聞かれれば、格好いい「プロダイバー」でもなければ、「敏腕経営者」でもありません。
私の本質は、ただ一つ。
「誰よりもこだわり抜いた、究極の雑用係」だと思っています。
ダイビングショップの仕事というと、多くの人は「青い海の中を魚たちと優雅に泳ぐ姿」や「お客様に海の感動を熱く語る姿」を想像されるでしょう。
確かにそれも大切な仕事の一部です。
しかし、そんな華やかな「水中の1時間」を支えているのは、実は陸上における「何時間もの地味で泥臭い、誰も見ていない雑用の積み重ね」。
今回は、40年の節目を前に、私がなぜ「究極の雑用係」を目指し続けているのか、その泥臭い日常を書いてみます。
プランターのきゅうりに水をやる理由
ダイブテリーズの朝は早い。
海に行く日はもちろん、ショップ営業の日も、私のルーティンは決まっています。
この季節、お店の鍵を開け、最初にするのは、店舗の脇にある小さなプランターへの水やり。
ここには今、きゅうりとミニトマトが青々と育っています。
サボテンが鮮やかな花を咲かせ、プルメリアや月下美人が顔を覗かせます。
春先はフリージアが満開になる場所です。
「ダイビングショップのオーナーが、なんで毎朝せっせと野菜や花に水をやっているんだ?」と思われるかもしれません。
しかし、私にとってこれはただの園芸ではなく、立派な「ダイビングの準備」なのです。
植物は嘘をつきません。
昨日どれだけ手をかけたか、今朝の気温や日差しがどれくらい強いかで、葉のしおれ具合や土の乾き方がまったく変わります。
じっと目を凝らし、土の湿り気を指先で確かめ、最適な量の水をあげる。
この「小さな変化に気づき、先回りしてケアをする」という感覚は、実はダイビングにおける安全管理と全く同じなのです。
お客様が今日、どんな表情で店に来られるか、体調に変化はないか、器材に不具合はないか。
毎朝のプランターへの水やりは、私の「観察のアンテナ」を極限まで研ぎ澄ますための、大切なウォーミングアップ(雑用)なのです。
片側の下がった肩と、真夏のシリンダー運び
先日、体のメンテナンスのために定期的に通っているクリニックへ行きました。
そこで理学療法士さんに苦笑いしながらこう言われたのです。
「我妻さん、完全に右の肩が下がってますよ。やっぱり右側ばかりに重いものを載せる癖があるでしょう」と。
原因ははっきりしています。
重いシリンダー(タンク)を背負うとき、私は必ず右肩から背負う癖があるのです。
40年間、たくさんのシリンダーを右肩で支えてきた歴史が、私の骨格そのものを変形させていました。
真夏の炎天下、アスファルトから陽炎が立つ中で、重いシリンダーを車に積み込み、ショップへと持ち帰ってチャージ(空気詰め)をする。
腰は悲鳴を上げ、汗は滝のように流れ、Tシャツは何枚あっても足りません。
インストラクターという響きからは程遠い、ただの激しい肉体労働です。
しかし、私はこのシリンダーを運ぶ瞬間が嫌いではありません。
なぜなら、この1本1本の重みこそが、お客様の「命の重み」そのものだからです。
「このシリンダーを使うお客様が、水中で絶対にストレスを感じないようにしよう」。そう願いながら、レギュレーターを接続するバルブのOリングに小さな傷がないか、指先で一つずつ確認し、丁寧に並べていく。骨格が変わるほどの地味な肉体労働の裏には、ダイバーの命を守るという、究極のこだわりが隠されているのです。
伊豆への道中、誰も気づかない「1℃の配慮」
テリーズでは、東伊豆や西伊豆、大瀬崎や土肥といった素晴らしい海へお客様をご案内するために、ショップの車を何時間も走らせます。
早朝、まだ街が眠っている時間に浜松を出発し、静まり返った高速道路をひた走ります。
道中、バックミラー越しに見るお客様の多くは、心地よい揺れの中で眠っています。
ナビからはテレビの音が静かに流れ、車内は穏やかな空気に包まれています。
私はこの移動中の空間を「最初のダイビングポイント」だと考えています。
運転中、私はエアコンの温度設定を1℃単位で細かく調整します。
「少し日差しが強くなってきたから、後部座席は暑いかもしれない」「山道に入って外気が下がったから、少し暖房を入れよう」。
さらに、ブレーキを踏むときは、車内にいるお客様の頭が揺れないよう、極めて滑らかに、まるで高級ホテルの送迎リムジンのように丁寧に車を止めます。
海に着く前に、お客様を疲れさせてはいけない。車内で完全にリラックスし、心身ともに最高のコンディションで海に飛び込んでほしい。車内の清掃、エアコンの調整、スムーズな運転、これらすべてが「誰も気づかない最高の雑用」です。

お客様が「なんだかダイブテリーズのツアーって、移動中もすごく楽んだよね」と感じてくださるなら、私の1℃の配慮は100%成功したことになります。
プール掃除とドライスーツクリーニングの裏にあるもの
海から帰ってきた後も、究極の雑用係の仕事は終わりません。
いや、ここからが本番と言ってもいいでしょう。
ダイブテリーズには、ショップ併設ダイビングプールがあります。
夏仕様にするためにシートを外し、水温を27度以上にキープする。
このプールの水を常に透明に保つためには、毎日の徹底的なフィルター掃除が欠かせません。
少しでもサボれば、水はすぐに濁ってしまいます。
また、お客様からお預かりした大切なドライスーツのクリーニングも、私が徹底的にこだわるポイントです。ファスナーの塩噛みを防ぐために専用のブラシで洗い流し、適切なハンガーにかけて陰干しし、バルブの動きに引っかかりがないかをチェックする。
これらの作業は、お客様の目に触れることはほとんどありません。
お客様が次にショップに来られたとき、「あ、今日もプールが綺麗だな」「スーツがピカピカになって戻ってきた」と、当然のように受け止めるだけです。
しかし、その「当然」を作り出すことこそが、プロの仕事です。水中でのトラブルの8割は、陸上でのメンテナンス不足や準備不足が原因で起こります。
私たちがプールを磨き、器材を狂気的なまでに丁寧に洗うのは、水中での「もしも」をゼロにするためです。私たちの雑用は、お客様の安全を担保するための、最も強固な盾なのです。
「できる」から「魅せる」へ。そして空気のような存在へ
ダイビングを始めたばかりの頃は、誰しも「自分が潜ること」で精一杯です。
インストラクターになれば、「お客様を安全に連れていくこと」が目標になります。
しかし、40年という時間を海と過ごしてきた今、私が目指しているのは、そのさらに先にある領域です。
それは、「できる」のは当たり前、その上で全体の動きを美しく「魅せる」こと。
そして最終的には、お客様にとって「空気のような存在」になることです。
そこにある時は誰も気づかないが、なくなれば誰もが困る」
お客様が「あ、マスクが曇ったな」と思う瞬間に、すでに曇り止めが目の前に差し出されている。
海から上がって「寒いな」と感じる瞬間に、ボートコートが用意されている。
お客様に「すみません、これお願いできますか?」と言わせてしまったら、それは雑用係としては二流です。言われる前に、すべてがスマートに、音も立てずに完了している状態。
それこそが、私が目指す「究極」です。
「ダイブテリーズに行くと、なんだか分からないけど、最初から最後まで本当にスムーズで、ただただ海の青さに感動して帰ってこられる」
お客様がそう言ってくださるとき、私たちの名前や、私たちが裏でどれだけ泥臭く動いたかは、記憶に残っていなくて構わないのです。
お客様の心の中に「最高の青い海の記憶」だけが純粋に残ること。
それこそが、究極の雑用係がお客様にかける、最高の魔法なのです。
明日も、最高の雑用を全うするために
40年続けてきても、海は毎日違う表情を見せてくれます。
台風が来れば海は激変し、時には私たちの予想を裏切る厳しさを見せることもあります。
それでも私たちが海を愛し、お客様を案内し続けられるのは、陸上での泥臭い準備という「確かな土台」があるからに他なりません。
年齢を重ね、「いつまでこの重いシリンダーを運び続けられるだろう」とふと思うこともあります。
しかし、お店のプランターに芽吹く緑を見つめ、綺麗に洗い上がった器材を眺めるとき、私はやはりこの仕事が心の底から大好きなのだと実感します。
私は、一生の時間をかけて「究極の雑用係」であり続けたい。
格好いい言葉で飾る必要はありません。
明日も朝早く起き、誰よりも早くショップの床を拭き、シリンダーの圧力を確認し、器材を準備します。
あなたがダイブテリーズのドアを叩き、何不自由なく、ただ目の前の青い世界に感動できるように。
さあ、明日の海も最高のものにするために。
まずは、乾かしていたお客様の器材の取り込みから、私の「究極の雑用」を始めましょう。
すべてはお客様の快適のために!


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