頑張らない、焦らない。脱力と呼吸、そしてマイギアが繋がった時に始まる「極上の水中リビング」の作り方
今週の浜松は本当に暑い日が続いていますね。
お店の温水プールで講習をしていても、水の中に飛び込む瞬間が最高に気持ちよく感じられます。
これだけ暑いと、「早く週末になって海に行きたい!」とウズウズしている方も多いのではないでしょうか。
さて、ここ数日間のブログでは、私が40年近く海に潜り続け、たくさんのダイバーやインストラクターを育ててくる中で、どうしても皆さんに伝えたかった「本質的なお話」をいくつかの角度から掘り下げてきました。
火曜日には、「海の中では、頑張る人ほど疲れる」という脱力のお話をしました。
水曜日には、「ダイビングが上手な人ほど、実は息を吐くのが上手」という呼吸の本質についてお話ししました。
そして昨日木曜日は定休日をいただきましたが、「なぜダイビング器材はマイギアになるとこんなにも愛おしくなるのか」という、大人だからこそこだわりたい器材への愛着について書きました。
実は、この3つのテーマはそれぞれバラバラに見えて、頭の中で完全に一つに繋がっています。
これらは、あなたのダイビングを「ただの必死な水中運動」から、人生を豊かにする「極上の癒やし・大人の贅沢な遊び」へとガラリと変えてしまうための、三種の神器であり、完璧なパズルのピースたちなのです。
今日は金曜日。
週末の海を目前に控えた今、この3つのピースがカチッと噛み合ったときに、海の中でどんな魔法のような変化が起きるのか。
プロを育てるコースディレクターという立場から、その少し深いところにある「本当の快適さ」の正体についてお話ししてみたいと思います。
プロや上級者が、海の中で圧倒的に「優雅で涼しげ」に見える本当の理由
ダイビングを始めたばかりの頃や、少しブランクがあって久しぶりに海に戻ってきたとき、誰もが一度は感じる憧れがあります。
それは、一緒に潜っているガイドやインストラクターの姿です。
彼らは、私たちが水中で「置いていかれないように」と必死にフィンを蹴り、残圧計を気にしてハアハアと息を切らしている横で、まるで無重力の宇宙空間にただプカプカと浮いているだけのように見えます。
どれだけ長く潜っていても、エントリーしたときと全く変わらない涼しい顔で、エアも驚くほど減っていません。
これを見て、多くの人はこう思います。
「あの人たちは体力があるからだ」
「毎日海に潜って運動神経が良いからだ」
と。
でも、それは大きな誤解です。
実は私たちインストラクターは、海の中であなたの何倍も「サボって」います。
もっと言えば、「いかに動かないか」「いかにエネルギーを使わないか」ということだけに全神経を集中させているのです。
私はコースディレクターとして、一般のダイバーだけでなく、未来のインストラクターを目指すプロ候補生たちを数多く指導してきました。
彼らに技術を教えるとき、最も時間をかけて叩き込むのは、難しいレスキューのテクニックでも、派手なスキルの見せ方でもありません。
それは、「水中でどれだけ完璧にサボれるか、力を抜けるか」という脱力の技術です。
陸上のスポーツであれば、真面目に一生懸命頑張ることが成果に直結します。
しかし、水の密度は空気の約800倍。
海の中で陸上と同じように「頑張って」力を入れれば入れるほど、水の抵抗は大きくなり、筋肉は酸素を激しく消費し、呼吸はあっという間に乱れてしまいます。
つまり、水中において「真面目に頑張る姿勢」は、自分自身を苦しめる最大の罠になってしまうのです。
海で本当に上手な人というのは、泳ぐのが速い人ではなく、「頑張らない技術」を極めた人のことを指します。
脱力・呼吸・器材の美しいサイクル
水中で完璧な脱力を生み出すためには、以下の3つの要素が綺麗な歯車として噛み合う必要があります。
- 【マインドと身体の脱力】 肩の力をストンと落とし、水に身を委ねる覚悟を決めること。
- 【息を吐く呼吸法】 吸うことへの執着を手放し、ゆっくりとお腹の底から古い空気を吐き出すこと。
- 【信頼できるマイギア】 自分の身体の一部として機能し、存在を忘れるほどフィットした道具をまとうこと。
「脱力」と「呼吸」の歯車が噛み合うと、海の世界は一変する
では、具体的に「脱力」と「呼吸」がどのように繋がっているのかを見てみましょう。
人間は緊張すると、無意識のうちに肩がギュッとすくみ、胸が硬直します。
この状態のとき、肺は「空気を吸い込んだ状態(膨らんだ状態)」でロックされやすくなります。
肺が膨らんだままになると、身体は当然ポジティブ(浮き気味)になりますから、今度は沈もうとして無意識に足や手をバタバタと動かしてしまう。
動かすから筋肉が酸素を求め、呼吸がさらに浅く、速くなる……。
これが、ビギナーの方が陥りがちな典型的な「水中の悪循環」です。
この悪循環を断ち切る唯一の鍵が、水曜日のブログで書いた「まず息を吐く」というスキルです。
水底に降りたら、まずは泳ぎ出すのをやめて、指一本動かさずにじっとしてみる。
そして、肩の力をストンと落としながら、レギュレーターを通して「スーッ」と長く、ゆっくりと息を吐き出していきます。
肺の中にある古い二酸化炭素をしっかり吐き切ってあげると、人間の身体というのは不思議なもので、次に必要な新鮮な空気は、頑張って吸おうとしなくても自然と優しく入ってきます。
ゆっくりと息を吐くことができるようになると、肺の体積が穏やかに変化するため、BCDのインフレーターボタンを頻繁にカチカチと操作しなくても、自分の呼吸の深さだけで水深をコントロールできるようになります。
これを通称「肺のトリム(適正浮力)」と呼びますが、この領域に達すると、中性浮力は信じられないほどピタッと安定します。
中性浮力は呼吸がキーポイントです。(実感したい人は来てください。)
浮力が安定すれば、もう無駄なキックをする必要はありません。
一回だけ大きく、ゆっくりとフィンをしならせたら、あとはその推進力だけで滑るように進む。
その滑っている間、足の筋肉は完全にリラックスして休んでいます。
これこそが、ベテランダイバーたちが水中で見せている「優雅なサボり方」の正体なのです。
すべてを支える最後のピース:なぜ「マイギア」が絶対に必要なのか
しかし、ここで一つ大きな壁があります。
それは、いくら頭で「力を抜こう」「息をゆっくり吐こう」と思っていても、人間は「本能的な不安」を感じている状態では、絶対に心からも身体からも力を抜くことができない、という事実です。
想像してみてください。
冷たい水の中に身を置き、人工の機械を通してしか呼吸ができない環境です。
そこで身につけている器材が、もし「毎回使い勝手やサイズが変わるレンタル器材」だとしたらどうでしょうか。
「このBCDの排気ボタンはどこだっけ?」
「マスクに少し水が入ってくるのが気になるな」
「レギュレーターの吸い心地がいつもと違って少し重い気がする」
そんな小さな違和感や不安が頭の片隅にあるだけで、脳は危険信号を察知し、身体の筋肉を硬直させます。
筋肉が硬直すれば、どれだけ意識しても呼吸は浅くなり、脱力なんて夢のまた夢になってしまいます。
つまり、レンタル器材を使っている限り、どうしても「不安を打ち消すために無駄なエネルギーを使う」という目に見えないハンデを背負うことになるのです。
だからこそ、私は大人のダイバーの皆さんには、早い段階で「自分専用のマイ器材」を持つことを強くお勧めしています。
これは決して、単に購入を促したいからではありません。
完璧な脱力と呼吸を手に入れ、海の本当の美しさを知るための「安心の土台」として、絶対に欠かせない最後のピースだからです。
自分の体型に合わせて完璧に調整されたBCD、顔のラインに吸い付くようにフィットして決して水が入らないマスク、自分の呼吸の癖に合わせて優しく空気を送り出してくれるレギュレーター。
そして、自分の脚力に合わせたフィン。
それらを身にまとった瞬間、水中の器材は「背負わされている機械」から、「自分の身体の延長」へと進化します。
海に入った瞬間に、「あぁ、いつもの自分の場所に戻ってきた」という圧倒的な安心感に包まれるのです。
この「100%の安心感」があって初めて、人間は本気で水中で力を抜くことができ、お腹の底から優しい呼吸を吐き出すことが可能になります。
3つのピースが揃った時、海は「極上の水中リビング」に変わる
「脱力」というマインドを理解し、「息を吐く」という呼吸を身につけ、それを「マイギア」という絶対的な安心感で支える。
この3つの歯車がカチッと噛み合った時、あなたのダイビングの世界は、これまでのものとは全く違う姿を見せ始めます。
必死に泳いでいたときは、目の前を泳ぐガイドの背中や、残圧計の数字しか見えていなかったかもしれません。
しかし、完璧なリラックス状態を手に入れたあなたの視野は、驚くほど広くなります。
頭上を見上げれば、水面を透過して差し込む太陽の光のカーテンがゆらゆらと揺れているのが見えます。
ふと水底に目をやれば、綺麗な砂紋の上を小さなハゼたちが楽しそうに行き来していることに気づきます。
あなたがバタバタと大きな音を立てず、静かに優しい呼吸で漂っているため、海の魚たちはあなたを「危険な侵入者」だとは思わなくなります。
警戒心を解いた魚たちが、向こうから好奇心を持って、目の前までスーッと近づいてくる感覚は、一度味わったら鳥肌が立つほどの感動です。
エアの持ちも劇的に良くなりますから、「自分が一番最初にエアを切らしてチームに迷惑をかけたらどうしよう」なんて心配をする必要もなくなります。
ダイビングの時間が、ただひたすらに心地よく、優しく、時間が経つのを忘れてしまうような、まさに「自分だけの快適な水中リビング」に変わるのです。
私たちは普段、仕事や日常生活において、常に「もっと頑張れ」「結果を出せ」と求められる世界で生きています。
無意識のうちに、常に身体に力を入れ、戦う姿勢をとることが当たり前になっているのかもしれません。
だからこそ、海の中にいるときくらいは、その「頑張る自分」のスイッチを完全にオフにしてほしいのです。
海は、あなたがどれだけ速く泳げるか、どれだけ体力があるかを試す場所ではありません。
どれだけ上手に力を抜き、どれだけ静かに呼吸を楽しみ、どれだけだらだらとリラックスできるかを堪能する、世界で唯一の場所なのです。
ダイブテリーズで、その最初の一歩をじっくりと一緒に踏み出しませんか
私たちダイブテリーズが、お店の中にこだわりの自社温水プールを構え、講習の際にも「早くできるようにならなくていいですよ」「安心してできるようになるまで、何回でも付き合いますからね」とお伝えしているのは、すべてこのためです。
スケジュールに追われ、慌ただしく海でスキルだけを詰め込んでも、恐怖心や不安が残ってしまえば、一生「脱力」や「優しい呼吸」の領域にはたどり着けません。
海を本当に楽しむためには、まずプールという100%安全な環境で、徹底的に自分の呼吸と向き合い、器材に慣れ、安心の土台を築くことが何よりも大切だからです。
「泳ぎが苦手だから不安だな」
「水がちょっと怖いけれど、自分にもできるかな」
そう言ってお店の門を叩いてくださった方が、プールでじっくりと練習を重ね、やがて海の中で肩の力をストンと抜き、目の前の魚を見てマスク越しに綺麗な目でニッコリと笑ってくれる瞬間。
コースディレクターとしてこれほど嬉しい瞬間は、40年近く経った今でも他にありません。
もしあなたが、これからダイビングを始めてみたいと思っているなら、あるいは、もっと楽に海を楽しめるようになりたいと悩んでいるなら、何も心配はいりません。
運動神経も、泳ぎの上手さも関係ありません。
大切なのは、力を抜くこと、そして息を吐くこと。
その素晴らしい技術を、私たちはあなたのペースに合わせて、納得いくまでどこまでも一緒にお付き合いします。
今週末もテリーズの仲間たちと一緒に、最高の海へ出かけてきます!
今回ツアーに参加される皆さんは、ぜひエントリーする前に、この数日間のブログの言葉を思い出してみてください。「よし、今日は世界一頑張らないダイビングをしよう」そう心に決めて、自分の愛おしいギアと一緒に、優しく息を吐きながら海へ溶け込んでいきましょう。
きっと、今までで一番優しく、そして信じられないほど美しい海が、あなたを迎えてくれるはずです。
「少し興味がある」
それだけでも十分です。
分からないことがあれば、お気軽にLINEからご相談ください。


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ピンバック: ダイブテリーズ 2026/07/22 【酷暑の日に、ふと「休むこと」と「海を想うこと」について考えてみた】