なぜダイビングを続けるのか?
こんにちは!
浜松のダイブテリーズ我妻です!
■ 飽きないんですか?と聞かれた日
ダイビングスクールをやっていると時々聞かれます。
講習生の一人が、ちょっと照れくさそうに聞いてきた。
「我妻さんって、今まで何本くらい潜ってるんですか? 正直、飽きないんですか?」
本数はもう一万をとっくに超えているから、数えてもいない。
でも飽きるかどうか、か。
いい質問だなと思った。
最近、同じ質問を二回された。
正直に言う。
飽きる日はある。
毎回、海に入るたびに感動して涙が出るなんて、そんな綺麗事は言えない。
伊豆の海だって、ベタ凪で抜け抜けの時もあれば、春先の濁りで目の前が真緑で、なんだよ今日は、と思う日もある。
器材は重いし、冬は寒いし、朝、腰が痛いなと思う日もある。
歳だ。
それでも、翌日にはまた行きたくなる。
店で器材を干しながら、次はどこ行こうかと考えている。
なんでだろうな、と自分でも考えることが増えた。
特に最近はプロコースをやることが多くて、余計に考える。
教えるという立場になると、自分のやってきたことを言葉にしなきゃいけなくなる。
■ 若い頃と今とでは、見えているものが違う
若い頃は分かりやすかった。
魚の名前を覚えるのが楽しくて、珍しいウミウシを見つけたとか、でかいトビエイが来たとか、そういう分かりやすい刺激を追いかけていた。
それはそれで楽しかった。図鑑が一冊、頭の中に入った感じがした。
ログブックも魚の名前で埋め尽くされていた。
でも四十年も潜っていると、魚を探さない時間が長くなる。
不思議なものだ。ぼーっと中層に浮かんで、自分の吐いた泡がゆっくり上に上がっていくのを見ている。
それだけの時間が、妙に落ち着く。
何もない、青いだけの空間が、なぜか一番贅沢に思える。
そういう感覚は、最初の数百本では分からなかった。
■ 上手い人は、吐くのが上手い
ダイビングの講習で最近よく話すのは、息を吐く、という話だ。
みんな吸うことを考える。
エアが足りない、苦しい、吸わなきゃ。
でも本当は逆で、上手な人ほど吐くのが上手い。
しっかり吐ききらないと、次は吸えない。焦れば焦るほど吐けなくなる。
中性浮力も、気持ちも一緒だ。力を抜くって、こういうことなんだよな、と。
ダイビングを始めたばかりの人は最初、自分のことでいっぱいいっぱいだ。
マスクが曇る、耳が抜けない、フィンが上手く蹴れない。
水中で自分の不安と戦っている。
それは当たり前だ。
誰でもそうだった。
僕もそうだった。
海の見え方が劇的に変わる瞬間
自分の楽しさから、人の楽しさや安全が気になり始める。
この瞬間がたまらなく好きだ。海の見え方が、ある日を境に劇的に変わる。
これを昔のダイブマスター候補生が「魔法がかかったみたいだ」と言った。
横にいる体験ダイバーの人のシリンダーが少し傾いているなとか、後ろの人の呼吸がやけに速いなとか、前にいるバディがちょっと緊張しているなとか。
自分のエアより、人のエアが気になるようになる。
自分の楽しさから、人の楽しさや安全が気になり始める。
この瞬間がたまらなく好きだ。
海の見え方が、ある日を境に劇的に変わる。
これを昔のダイブマスター候補生が「魔法がかかったみたいだ」と言った。
言い得て妙だと思う。
自由へのパスポート、なんて言葉もあるけど、魔法の方が近いかもしれない。
潜る楽しさの、その先にこれがある。
魚が綺麗だから、という理由の先。自分のカッコよさの先。
そこに来ると、ダイビングは全然飽きない。
■ 教えるという楽しさの先
IDC、つまりインストラクターを育てるコースでも、ずっと同じことを伝えている。
インストラクターになるって、凄いダイバーになることじゃない。
人が変わる瞬間に立ち会える人になることだよ、と。スキルを教えるのは当たり前。
大事なのは、その人の不安が、できるに変わる瞬間をどう作るかだ。
先月のオープンウォーター講習に、六十代の男性がいた。
定年退職して、何か始めたいと来てくれた人だ。
最初のプールでは、マスクに少し水が入っただけで立ち上がってしまうくらい怖がっていた。
顔がこわばっていた。
それでも彼は辞めなかった。
何度も顔をつけて、何度もクリアの練習をした。
僕らは急かさなかった。プールがあるから、納得いくまでやれる。
最終日の海洋実習、大瀬崎の浅場で、彼が初めて自分の力で中層に止まった。
足も手も動かさず、呼吸だけでふわっと止まったんだ。そ
の時に水中でこちらを見た。マスク越しだったけど、目が笑っていた。
ああ、できた、という顔だった。
できた、じゃなくて、やれた、という顔だった。
あの顔を見てしまうと、やめられない。何百回見ても、やっぱりいい。
インストラクターを続けている理由は、ほとんどこれだ。
■ 浜松はゴールじゃない、起点
だから浜松という場所で続ける意味も、最近はっきりしてきた。
浜松はよく「海がない」と言われる。遠州灘はあるけど、ダイビングで潜る海は目の前にない。
だからこそ、ここは面白い。
ここはゴールじゃなくて、起点だ。ベースキャンプだ。
東に行けば伊豆半島。西に行けば三重、紀伊半島。少し足を伸ばせば神子元でハンマーヘッドの群れだって狙える。
飛行機に乗れば沖縄も北海道も行ける。
浜松にいると、太平洋全部が自分の行動範囲になる。
浜松から行けない海はない、くらいの気持ちでいる。
そして、帰って来られる場所があるのが大きい。
温かいプールがあって、器材をちゃんと干す場所があって、今日の海はどうだったとログを広げて話せる場所が。
冒険に出るには、安全なベースキャンプが要る。
浜松は、僕にとって最高のベースキャンプだ。
都会のように海がすぐそこにあるわけじゃない。
だから準備する。
だから想像する。
その往復が、ダイビングを丁寧にしてくれる。
口酸っぱく言っていることがある。
「ダイビングは冒険であって、無謀であってはいけない」って。
海はテーマパークじゃない。
自然だ。だから準備をする。
器材を整える。
体調を整える。
最悪のことを想像して、それを一つ一つ潰していく。
その準備があるから、心から楽しめる。安全への想像力、なんて堅い言い方をしているけど、要はそういうことだ。
この準備の時間まで含めて、ダイビングなんだと思う。
海の中の六十分だけがダイビングじゃない。
前日の夜から、当日の朝のプールから、帰ってきてからの手入れまで、全部がダイビングだ。
■ 結局、なぜ潜るのか
結局、なぜ続けるのかと聞かれたら、うまく答えられない。
地上では、名前も仕事も年齢も背負って生きている。
海の中に入った瞬間、それが全部剥がれる。
残るのは自分の呼吸だけだ。
スーッと吸って、はぁーっと吐く。
ただそれだけになる。
その瞬間が、たまらなく静かで、たまらなく贅沢なんだ。
余計なものが全部削ぎ落とされる感じがする。
ダイビングスクールの彼にも、結局こう答えた。
「飽きる日もあるよ。でも、やめる理由が見つからないんだ。明日も潜りたい、という気持ちだけが残るんだ」と。彼は笑っていたけど、分かってくれたと思う。
週末もまたプールだ。
器材を準備しておこう。プールの水温もチェックしなくちゃ!
いつものこと。
そんな日常の繰り返しが、僕にとってのダイビングライフ。
まだまだ浜松ををベースにがんばります。
「少し興味がある」
それだけでも十分です。
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